場の日没に

                       下前幸一

 

何もない

場の日没に僕はいる

 

微かな砂の侵食に

言葉もなく記憶は

こわばりを解いていく

 

名前のない余白に

主のない

居場所が滲んで

 

誰のものでもない

 

誰のためでもない

 

何もない

場の日没に僕はいる

 

砂の遠景は

音もなく自らの

限りを蚕食している

 

そこへ

 

熱を失った光景が

語りえない零度の

暗がりへと溶けていく

 

薄い破線を引きながら

いたいけなものが

不安定に明滅している

 

錆色の日は遠く滲んで

遠く

思いを残し

 

風の微かな束なりが

小さな安息を呼んできた