誰か いますか


    1

俺たち隊員は 外国語が必修だ
 韓国語 中国語 タガログ語
   なにか三ヵ国語以上
  インドネシア語 英語 ロシア語…
    簡単な会話ができればいい
学校では苦手だった奴ばかりだが
   (アバカ アダ オラン?
      モホン ムンジャワブ*
     〈ヌガ イッソヨ?
       テダッペ チュセヨ**
    ここでは嬉々としてやってるよ
俺たちが真っ先に覚えることば それは
  〈誰か いますか
      返事してください

  時を措かず
  最寄りの基地を飛び立ち
  海を越え
  被災地上空にホバリングする大型輸送ヘリから
  次々と降り立つ
  崩れた梁の下で 呻いている人
  地下室で絶望の壁をかきむしっている
  かもしれない人たち に向かって
  声の限り 呼びかける
  一縷の望みを 祈りにこめて
  〈誰か いますか
    返事してください

    2

軍隊にも 武器にも
   おさらばした国の 国際災害救援隊
     俺は 転身組だ
   解体された自衛隊からの
″仮想敵″は 地震、津波、台風、洪水、噴火…
  ″戦場″は 国内はもとより 近隣諸国 世界中
人を殺す訓練のあけくれから
  今では 人を救う訓練のあけくれだ
     胸を張って街を歩けるようになった
妻も息子も よかったと言ってくれる

  第一報から二時間後
  水、医薬品、食料、毛布、テントを満載し
  医師、看護師、救護隊員らを載せた
  大型高速輸送艦が三隻
  佐世保基地の岸壁を離れた
  土木建設資機材と復旧隊員を積んだ後続艦が
  スタンパイしている

    3

(日本のみなさん なぜ
われわれ外国の救援を してくれるのですか
時には 千人もの隊員を
  しかも無償で

〈日本はかつて 何百万人もの兵隊を
大陸に 半島に 南の国々に 派遣し
迷惑の限りを つくしました
戦後も 戦争を放棄した憲法に そむいて
二十数万の軍隊を 常備し
世界有数の軍事費を つぎ込んできました
それを思えば
五万人の救援隊を 常備し 派遣するなど
なにほどのことも ありません
独立中立平和を宣言した日本の
なによりの国際頁献のつもりです

〈確かに 軍隊を持たず
全方位に平和外交を展開し
国際平和と他国の救援につくしている国を
攻撃しようとする国は ないでしょう
世界中を敵に回すことになりますからね

〈それに 日本という国は
いつも 列島のどこかで
自然災害に 見舞われています
ですから
創設したのが 災害救援隊
やめちまったのが 原発と軍隊 です

    4

チュンよ 元気にやってるか
 ソクホンよ めそめそしていないか
  アリョーシヤよ 会いたいね
日本でも 大地震に 津波に
 原発まで爆発したことがある
  親を亡くした子がたくさんでたよ
   実は俺もそのひとりさ
だけど な 負けるなよ
 世界を変えなくちゃ
  自分を鍛えるんだ
俺はどこにでも飛び出して 呼びかけるよ
 君たちに呼びかけたように

   誰か いますか とね


    *インドネシア語 「誰かいますか」 「返事して下さい」
    **韓国語 同



 長いブランクのあと、ここ七、八年のあいだに発表した詩から選んだ詩集だということです。
 少しだけ縁のあった「大阪の断腸詩人Iさん」が詩に登場したりして、親しみを感じました。
 詩集の題名になっている「誰か いますか」という詩を紹介します。今、自衛隊の名前を国防軍と変えようという動きがあり、米軍との結びつきを深め、米軍とともに戦争をする体制づくりが進められる中で、あるいは夢物語かもしれないけれども、とても元気づけられる詩です。昔、といってもわずか二、三十年前には、非武装中立ということが現実的な方向として語られていました。それから少しずつ軍備は拡張され、政治状況も変わり、今、非武装をとなえる人はほとんどいないかのようです。熊井さんは災害救助の場で「誰か いますか」と呼びかけますが、僕には「非武装日本を支持する人は、誰か いますか」と呼びかけているように思えます。

詩集「誰か いますか」  熊井三郎 著

                     詩人会議出版 発行