踏切の八月
                                下前幸一


八月はもうろう
焼けた耳鳴り

熱中症の思考に
薄い焦燥を浮かべた

十五日には、ふと
消毒の臭いが漂った

小さな息子の手を引いて
踏切に、僕はたたずんだ

「かん、かん、かん、かん、」

踏切が下りるたびに
小さな息子と和したのだ

君は爆風の中

やがて薄らいでいく視界の向こうに
死を、見失ってしまった

「かん、かん、かん、かん、」

轟音を蹴立てて
なにか見えないものが行き交う刹那

おびただしい君が
報道の脇に倒れていく

君は硝煙の中、そして

「かん、かん、かん、かん、」

と、指さす小さな息子のかたわらで
僕はただ枯渇している