八・一五の窓辺に
              下前幸一



三五度の熱気に溺れて
標のない時代の
息苦しい波間にあがき
そして沈みながら
思いの藁を求めている

あるいは切実な傍観者として
騒ぐ水辺の政局の際に佇み
八・一五の窓辺から
水底に揺らぐ
被曝したコトバを私は見ている

八・一五の窓辺に
私は見ている
領収書付の歴史認識
私たちの中でもうすでに
寂れてしまった記憶を

石の沈黙を

思い起こす儀式を
追悼の君が代を

そして語り継ぐべき
私たちの何かを否応なく
場に閉じてしまう
黙とうの形式を

真夏の渇きに呑まれて
八・一五の窓辺に
つたない私の思考が揺れている
おぼつかない足取りで
一九四五年真夏の場所から

そしてどこへもたどり着けないまま
ただ遠ざかっていくのだ
視界の水底に触れる
置き去りの
ハルモニの告発をふりほどいて

六七年の歳月に
歪みひしゃげてしまった
八・一五の窓辺に
口をつぐんだまま
立ち尽くすひとつの影

あるいはもうひとつの
無数の窓辺に

こわばったまま
埋もれてしまった
政治決着済みの証言が
今もなおためらいがちに語ること

八・一五の窓辺に佇み
夕刻に沈んでいく感情と
大陸の黄土に暮れていく
体温に似たまなざしを
今私は見ている

闇が静かに満ちるとき
群れ騒ぐコトバの海の
ひと時の孤独に
遠い周辺から
かすかに頭痛は訪れる

揺れている
八・一五の私の窓辺に