呼ぶ声に


ナス キュウリの
家庭菜園を
ワタ畑に変えてみたが
日照時間がみじかく
育ちが良くない
あれこれ やってみて
陽の当たる二階のベランダヘ
プランターを並べた
朝夕の水遣りに困ったが
大きめの実が
一株に十個もできた
ワタ作りに嵌まっている

朝には欠かさず
クリーム色の花を咲かせて
桃に似た実がずらりと並ぶ
実直なところが好きだ
窒素系肥料をあたえ
花と実を育てる
母のとおいおやが
ワタを繰り
糸を紡いだ
あきんどの血が
長い年月をこえて
此処まで駆り立てるか

ところで そのワタ
何に使うつもりですか
…………
誰にも言えない
ある思い付きを
じっと温めている



糸とりうた


崑崙の里から渡来した
一握りのワタの種
出会いにこたえて
とおいおやは
種を播く
花咲く岡は風の通り道だった

ぐいと伸びた枝に
桃に似た実がずらりと並ぶ
秋も過ぎて
岡に木枯らしの渡る頃
桃の実はじけてワタを吹く
二度日の花かと目を瞠る

美しくいて実直なツタの木に
ほれこんでしまった
とおいおや
えにしをたどれば
かすかにきこえる
糸とりうたは空耳でしょうか



詩集「糸とりうた」  清水一郎 著
                
                    竹林館 発行

 私の住む大阪市平野区の区花はワタで、区のワタ畑もあり、また先日は小学生の子供がワタの種を持て帰ってきた。種は目を出し、すくすくと育ち、花咲き、やがてワタの実となった。
 江戸時代、河内の一帯はワタの産地で、収穫されたワタは集散地としての平野に集められたという。ワタは河内木綿として加工され、人々の暮らしを支えた。
 目に美しい花にはない古の暮らし、人々の息吹が感じられるワタに、清水さんは「ほれこんでしまった」。そんな感受性をもっ日々の暮らしを綴った詩集です。(下前)