波止場
夜の港に来ています
しぶきが
腹の底に響きます
鳩の公園から
霧の中の汽笛まで
夢ばかりみてきました
もしかすると〈希望〉って
前を向いている時の
後ろ姿
なのかもしれません
昼間の喧騒も
闇の中でしずめられ
高層ビルや百円ショップや携帯メール
もまれて、もがいて、流されて、ぶつかって
そんな中でも
今日、どこかで権利を認められたひとがいて
今日、どこかで結ばれたひとたちがいて
海はつながっています
心の波打ち際から
今夜
各地のひとたちの
後ろ姿へ
この詩を贈ります
ラッシュアワーの駅で聞く人身事故を
ダイヤの乱れと苛立つ社会で
夢をばかにしないで生きるひとびとの
人生の波音を
わたしは大切にしたいのです
人を見る佐相さんのやさしさ、共感に満ちた視線が伝わってきます。比較的やさしい言葉の運びの後ろから、波止場のざわめきが聞こえてきます。それは人々が行き来する現実の海であり、様々な国籍の人々が暮らす路地であるとともに、人々一人一人の胸の奥に静かに波打つ海でもあるのかもしれません。夕暮れの海辺に佇みながら、人は自分の中の海を見ているのかもしれません。それは、寄る辺ない人々をつなぐふるさととして、波止場から共感の輪は広がっていくのかもしれません。自分自身の、そして人々の現実に寄り添って、そっと声をかけるようにして紡ぎ出された詩集だと思います。
「死んだひとびとがのこしたものや思いをいまに生かすことや、いま現実とたたかったり悲しんだりしているひとびとに寄り添うことは、自分自身の内奥を深めることや、自己存在の声を発することと同じ領域にあると感じます。」(あとがき)