浜通りの言葉
浜通りの人って言葉荒いよね
怒鳴られてるようで怖い
午前中からパチンコ屋に行ってるって
それも外車に乗ってだよ
補償金もらえるからだよね 常識あるのかな
三〇センチと離れていない隣の席
中通りのファミリーレストランで語る男女
あれから一年半が過ぎた
仮設住宅の生活の所在なさ
失った仕事、よみがえらない日常
帰村も帰宅も見えない日々
かかった靄は払っても払っても漂って
長引く手立てのなさに
受け入れる側と避難する側に生じる気持ちのずれ
軋轢
だが待てよ
いざこざ、軋轢、行き違い、これを望んでいる者がいる
正義感を身に纏い、私が仲裁しましょうと
なだめたり、対策を練ったり
見せかけの対応に気を取られているうち
進まぬ除染、大飯原発の再開
あっという間に廃棄基地の候補決定
甲状腺検査の驚くほどの過小評価
住民の軋轢は望むところ
本質に目がいかぬ軋轢は望むところ
感情でもめているうちに
ふるさとは奪われ棄民となり
気が付けば
ぼろ雑巾のように捨てられて
ただ実験の素材となって
詩集「悲しみの向こうに―故郷・双葉町を奪われて」
コールサック社 発行
著者の故郷は、福島県双葉郡双葉町両竹で、実家は東京電力福島第一原子力発電所から3・5kmのところ。地震・津波・放射能汚染により故郷は壊滅状態となった。大学進学後故郷を離れたが、母上の介護のために通い続けた故郷。その壊滅に深い悲しみを覚え、書き綴られた詩集。
「悲しみの向こう」にはまだ何も明かりは見い出せない。しかし悲しみをそのままにしておいては、生きる力にならない。悲しみを存分に書き残すことが、今、私がなすべきことであると思うようになった。」(あとがき)