一読して、とても肯定的な感情が湧いてくる詩集です。
佐相さんの詩の多くはなにか肯定的な方向を志向していて、読者の志向をそちらのほうに誘っていくのでしょうか。とにかく、肯定的な志向とそれを生み出す言葉に対するある種の信頼を感じます。詩はどのような言葉の地盤に立ち、地盤を信頼し、そこに展開するのでしょうか。「港」という言葉がキーワードかもしれません。明日との出会い、他者との出会い…。
詩集のなかでは「あいさつ」が特に僕の心に触れてきました。また、「かもめ」の中の「ものすごく冷静で ものすごく酔っている それが生きるということだ」というフレーズがいいと思いました。僕自身は、ともすれば忘れてしまうことでもあります。
(下前)
佐相憲一詩集 「港」
2010年 詩人会議出版
あいさつ
〈さよなら〉を顕微鏡で見つめると
しずくの中の光の粒子が虹になって
感情のリトマス紙を見ると
マイナスではない微妙な色合いで
〈かなしみ〉がにっこりしている
〈こんにちは〉を顕微鏡で見つめると
もうそれは
数えきれないくらいの
〈さよなら〉でできていて
やあ とか
おう とか
身振りもまじえて会うことが
いつしか〈思い出〉などというものに変化して
〈人生〉を今度は望遠鏡で見つめてみると
他人みたいな自分と
自分みたいな他人が
星のように時空に浮かんでいるから
ついつい
〈おはよう〉とか
〈こんばんは〉とか
つぶやいているこの時ももう
〈さよなら〉の匂いがしてきて
だからまた
言いたくなるのだ
ボンジュール
アンニョンハセヨ
グーテンターク
ニーハオ
ハロー
こんにちは!