夏の朝の愉しみは

夏の朝の愉しみは
大鍋に湯を沸かし
十薬、はと麦、現の証拠、はぶ茶を入れ
薬草茶づくり
日ははやばやと竜王から昇りはじめ
ひかりの箭を放つ



くちなし

くちなしの白い蕾がひらこうとしている
目をとじて そっと唇で触れてみる
脳宇宙がしびれるような香りがして
ぽーんとはじけた
目白のように蜜蜂のように
舌をさしいれてみる
甘いような酸っぱいような苦いような
花弁がすこしほてったような気がする
さらに先に舌をいれる
くらくらとめまいがして
快楽脳の中枢にむかって
伝達物質が発射される
やがて
それが巨大な塊となって爆発し
とろけていく




「夏の朝の愉しみは」」 
          田中 よしゆき 著
           ドット・ウィザード刊

 たなかよしゆきの10冊目の詩集です。私家版での発行になっています。19歳の頃、ガリバン刷りの詩集をつくり、地下街や公園で売っていた、あの頃に立ち帰っての発行だそうです。
 久しぶりのたかなよしゆきの世界で、頭のこりをほぐしていただきました。ひとつは仕事のことで、毎日バタバタと走り回っていて(自然食品の配達)なんにも考えられないまま、毎日が過ぎていく焦りと、もうひとつは、最近「詩と思想」で書評を担当しているのですが、なにか気の利いたことを書かなくては、とか、もうちょっと深く読まなければ、とか、あれこれと気を使うのですが、この詩集はそんなこと何も考えずに、ただ味わうように読みました。ものを食べるときに何も考えないように、ただ味わうように読めるということは、
それは達成ですよね。なかなかありえないことだと思います。
 日々の点景はどれも味わい深いですが、「くちなし」にはちょっとドキッとしました。なにかエロチィックな味わいで、でも好きです。