日曜の朝
                  下前幸一


テーブルには
君が作った携帯電話

石鹸の空箱に
マジックの押しボタン
ぴ ぽ ぱ

で、君は繋がっていく

ポケットモンスターの
朝焼け
デジタルの静けさに

初めての場所に
初めての風が匂う

仄かに青く
原っぱの気配に
渦巻く時間

ぴ ぽ ぱ

で、君の場がひとつ
また深化する

フレンチトーストの
朝のテーブルから
日盛りのエアーポケットへ

空いっぱいに広がった
クレヨンのヒーローと
胸に疼くときめき

まだ柔らかい地図と
薄い戸惑い
影のない未来の小道

石鹸の空箱に
マジックの押しボタン
ぴ ぽ ぱ

で、僕らは繋がる
もっと遠いところへ

語られなかった地層の
長い不在
深く折りたたまれた記憶

ケーブルテレビの
三月の空
報道の向こうに

タハリール広場の
ざわめき
アラビアの歓声にさらされて

ぴ ぽ ぱ

で、暮らしの底板を踏み抜いて
晴れ渡った背景に
僕らは浮かぶ

ジャスミンの香る
カイロの路地から
石畳の広場へ

ミナレットの朗唱
金曜モスクの礼拝と

アデン・アラビア

そして
雨上がりの天安門
口をつぐんだざわめきに

石鹸の空箱に
マジックの押しボタン
ぴ ぽ ぱ

で、
ホワイトノイズの雑踏に
つながっていく

呟きの
切実な連帯に

ひっそりとした朝の
歴史の日溜まりで
聞こえないものに
僕らは耳を澄ませている

今この場所の
鈍い疼きと

石鹸の空箱を開ければ
空っぽの
そこは青天井