大きなつゞら
               なべくらますみ



はい 私は一番大きなつゞらが欲しかったのです
その中には あの世 この世 以来の
沢山のお化けたちが押し込められていることを
知ってはいましたけど

うごめく者たちの息遣いを背中で感じ
いや応なく聞こえてくるざわめきを耳にして
それでも お化けとなってしまった彼らがいとおしく
背負い続けていたのです
大きなつゞらは重すぎました
ついに ど〜んと 尻もちをついてしまい
その拍子に 蓋がはずれて
押し込められていた彼らは一気に飛び出しました
うれしそうな叫び声を挙げながら

その後彼らはどこへ行ってしまったのでしょう
空っぼになった大きなつゞらだけを残されて
私は途方に暮れています

いくつものつゞらを並べられ
 どれでもお好きなものを撰びなさい
と言われたら
私は今でも
一番大きなつゞらを取ってしまうでしょう





詩集「大きなつゞら」  なべくらますみ 著
                
             土曜美術社出版販売 発行

私たちの身辺にただよう、ちょっと不安な世界。
「百鬼や妖怪がいたのは大昔のことだけではない。今でも姿を変え、生き様を変えて、現実世界に生きている。」
(あとがきより)