四月の壁絵


タケ〇さんが死んだ
タケ〇さんは一人の家で
一人ぼっちで死んだ

その朝、僕らはお迎えのクルマを停め
何度もインターホンを押して
「タケ〇さーん」と呼びかけた
トントンと扉を叩き
「おかしいね」と首をひねった

呼びかけの向こうで
タケ〇さんは横たわり
冷たくなっていた
見えないタケ〇さんのなきがらへ、僕らは
「タケ〇さーん」と呼びかけていたんだ

前日まで、タケ〇さんは壁絵の桜や菜の花を作っていた
指先で千代紙をたたんで、ひねる
一枚ずつ開いて、花びらが出来上がる
僕はタケ〇さんを介助した
タケ〇さんの腕は細くて、木の枝のようだった

タケ〇さんの桜や菜の花は
四月の壁絵を彩った
満開の花の里を蒸気機関車が走っていく
タケ〇さんはあの汽車に乗ったのだろうか
壁絵の中のずっと向こうのクニへ

タケ〇さんは送別の花を自分で用意したのかもしれない
タケ〇さんは一人の家で
一人ぼっちで死んだ
旅立つタケ〇さんを
あの朝、僕らはお迎えのクルマを停めて
「タケ〇さーん」と呼びかけていたのかもしれない