地球のゆくえ 原圭治著

      竹林館 刊





  1932年生まれの著者による第九詩集。
 地震災害、原発事故、気候変動、コロナ危機、沖縄・安保など、社会的な現実に対して批評の目を注ぎ、地理的・時間的な制約を詩的な想像力によって、詩作品として結ばれています。
 原さんの詩は時代に対する警鐘であり、読者に対して問題を伝達し、ともに考え、行動することを呼びかけますが、その言葉は断定や断罪、結論を諭すものではなく、語尾は読者の感性に向けて開かれています。そのことが社会的な詩でありつつ、原さんの詩の魅力になっていると思います。



 なぜ歩くのですか


ひとはなぜ 歩くのでしょうか
行進を始めて45年目の5月 東京・夢の島を出発し
広島にむかって およそ1000キロを歩きます
平和行進の11の幹線コースのひとつが始まりました

あの日 広島へ 急いで歩いていきました
落下傘につけられたドラム罐のようなものが
空中に浮かび
爆発の瞬間は 太陽が落ちてきたと思った直後の広島へ

ひとはなぜ 歩くのでしょうか
行進しているうちに 大勢のひとが参加してきて
網の目のように繋がっていくことが驚きでした
沿道での募金や 飲み物 拍手や声援で感動の連続です

あの日 広島に 歩いて行かされたのです
命令に従い 原爆投下の2時間後です
爆心地から200メートルの所まで行き 猛烈な熱さのなかで
死んだ人を何人も背中にかついで運んだのです

ひとはなぜ 歩くのでしょうか
5月半ば 北端の礼文島から出発して
4つのコースを網の目に拡げて 幾つもの村々や町を
緑萌える大地を吹き抜ける風になり 札幌まで歩きます

あの日 広島まで みんなで歩きました
放射線の怖さを知らずに入市して
救助作業にあたったことが病気の原因だと思います
3度のがんの手術 それでも国は原爆症を認めません
この苦しみは原爆のせいだと認めてほしいんです
もし 原爆がなかったら
普通の家庭を持ち 別の人生を歩けた筈です

ひとは ヒロシマにむかって歩くのです
ひとは ナガサキにむかって歩くのです
100万人の人びとのピース・ウォークです

国の認定審査の方針では
入市被爆者の継続的体内被爆による原爆症原因確率を
ゼロパーセントとしている
だから被爆者手帳取得者28万5620人のうち
「原爆症」認定人数は わずか2169人で
いま 58年の苦しみのすべてを伝えたいと
被爆人生の最後をかけた
怒りの提訴へ 人びとは歩いていくのです

                 *「命の炎燃やして」 新聞記事参照