詩集「おのれ生え」         永井ますみ著
            さいけい舎刊


 「弥生時代」「万葉集」「コロナ禍」とテーマに沿った詩集をこれまでまとめてきて、そこからこぼれたしまった詩を纏めた詩集。
 「おのれ生え」というのは、野菜の畑でこぼれた種から自然に芽生えたもののことで、こぼれた詩が集まって、まとまって、詩集となったという、この詩集の趣旨をよく表していると思います。
 この詩集で、永井さんの詩は日常生活を母体に日常語を駆使して、語られています。子供時代から、ご夫婦での暮らし、看護師としての思い、そして家の畑をめぐる詩など。
 語りの詩の中に、生まれ故郷の方言がすっと割り込んできて、その言葉が光を放っていて、とても印象的です。方言の一言のために多くの言葉が費やされているかのようでもあります。もちろん語りの言葉がしっかりと地を固めているからこその方言の一言なのですが。
 「おのれ生え」の詩は強いのだと感じさせる詩集です。


おのれ生え Ⅰ


うちの庭には畑がある といっても二坪ばかりのささやかなものだが
ここが新興住宅地で家を建てた昔 庭を掘って石を取りのけ
土の中に埋めごまかされたものを取りのけた
より細かな土を山から取ってきて入れたり
野菜の土と称されるものを何袋といわず買ってはその空き地に入れた
土代、肥料代、野菜の苗代 膨大な汗をこの四〇年ばかりつぎ込んで来たのだ
抜いた草を袋に詰めてゴミに出すなんて
刈り払った枝を束ねて生ゴミに出すなんて
下町育ちの夫の循環しない理論
私は植物を奪い取って火を放ちたい
火を放つことで土壌の浄化が図れるのに
今や庭で火を焚くこともならんのだ

このところ好評につき春にはトウモロコシを植える
夏には冬の収穫のために大根を植える
春と夏の間がおのれ生えの適期だ
いつか食べたジャガイモが芽生える
腐ったと思って放置した里芋が葉を延ばす
黄色い花を振り立てて南瓜の蔓がフェンスを乗り越える
おのれで勝手に芽を出しましたゆえ
おのれで勝手に枝を張りましたゆえ
おのれで勝手に蔓を伸ばしましたゆえ
おのれで勝手に稔りまするといって
椿の葉の間から南瓜がまるい顔を出す
キュウリがつやつやと堅い腕を伸ばす
知らんのか
自由を食べて大きくなったおのれ生えは
格別うまいのだ