詩集『風船島奇譚』
   永井ますみ著

    さいけい舎刊

 こぼれてしまった詩を纏めて、『おのれ生え』は、あるある……といった詩を、『風船島奇譚』の方は、ないない……という詩を集めてみたそうです。
 「ないない」の意味は確とは分かりませんが、夢(非現実)の中へ、夢と現実を浮き沈み、夢と現実のあわいをたゆたい、そこからふと眼ざめ、そのあわいのなかにこそ詩のありかを求める意図のようなものが浮かびます。
 詩集の後半は、現実の方へ眼ざめ着地したような趣きの詩群で、原発事故による放射能汚染の福島をテーマにした詩や、、米軍の爆撃や沖縄戦の状況をたどるような「那覇公園スケッチ」が印象的です。
 

一羽のひばり


三月になったばかりの空くもり
はらりと張られた電線を五線譜にして
一番上の線のさらに上で
ひばりがたった一羽で叫んでいる

ちゅくちゅくちゅくちゅくちゅくちゅく

衝動的にとび上がったのだ
まだ冷たい空の上層で行き詰まり
羽根ふるわせて高鳴く

行けない 行けない まだ行けない

空に書き込まれた五線譜に囚われているのか
作り上げた巣のある野菜畑のただ中へ降りていきたいのか
あるいは ゆうゆうと鳶の滑空する山の高みへ駆け上がりたいのか

行けない 行けない まだまだまだまだ

見えない一本のひもで体と心を囚われたように
僅かに移動しながら しきりに羽根を羽ばたかせ
あがいている一羽のひばり

行けない行けない行けない

雲の重く敷きつめられた空から
一筋の光が降りてきて射られたのか
礫のようにいきなり墜落する
黒ずくめの小さな一羽のひばり