詩集「花ノ木の里」
   二階堂晃子著
         蒼穹舎刊


 亡くなったご両親やご家族をおくるレクイエムとしてこの詩集は始まっています。
 そのその背後には3・11の東日本大震災とそれに続く東京電力福島第一原発事故が深い影を落としています。
 レクイエムはご家族の死から災害によって亡くなった人々の死へ、さらには失われたふるさとや傷ついた記憶、歴史へと思いを喚起していきます。
 3・11は決して終わってはいないし、今も深く鈍い痛みを発し続けています。その中で、著者は希望を灯す願いとして、この詩集を上梓したのだと思います。

「どこかに残しておかなければならない姉弟が愛したふるさと字名「花ノ木」。土起こし、花咲かせ、ほんの小さな蘇りを願い、つなげていきたい思い強く、残された者は壊滅したふるさとに、今足を運んでいる。」(あとがきより) 


水仙

被災地をたたく豪雨が とどめを刺した
満身創痍の蔵
さび付いたかんぬきを叩き壊し
分厚い扉を開ければ
屋根に 空を覗かせ
泥と線量にまみれた 歴史の束が
朽ち果て 山を成し
「蔵」の終わりを告げていた

さなぶり 刈入れの結いをもてなした
朱塗りの盆 会津塗りの汁椀 瀬戸もの
弔いに 灯され続けた大提灯 家紋入り花挿し
床の間で名言を語っていた 掛け軸の束
杵音高く 餅をついた臼
水に洗われ固まった もうめくれない過去帳
文学全集 古書 映像が溶けたアルバムの山
語らず証言して来た父の軍服 ゲートル 水筒も

透明なビニール袋に詰め込まれ
取り置きしたい手を鎖で結び
受け継ぐ手筈だった 歴史の束
マスクと軍手 ほこりにまみれて佇む家人の
慚愧と無念を置き去りにして
四tトラックのピストン輸送は
中間廃棄物処理場へ 家の歴史を捨てに行く
放射能というベールを纏ったまま

崩れ行く蔵の傍ら 水仙が三株
まっすぐな葉に つぼみを抱いて じっと
連れて行こうと さび付いた鋤を手に
てこの力で 掘り起こす
葉だけが切れて 球根まで届かない
ああ ごめんね
二株目の水仙に 鋤を差し込むも
根元の白い茎で切れて
球根は また 掘り起こせない

「家」の終わりに
ここでこそ咲いていたいのか
ここでこそ根付いていたいのか
早春の葉を まっすぐ伸ばし
水仙は球根を 土深く 黙して