春の声
何をしているの?
ふとあどけない声がして
振り向くと 誰もいない
日常の訳の分からぬ忙しさのなかで
階段を駆け上がり 駆け下り
マイクロホンを片手に議場で叫び
更に「当面の方針」とやらに追われて
人々の待つ方向へ急行しょうとする
何をしているの?
再び可憐な声がして
見ると 少女が立っている
本当に おまえは何をしていたのだ
夢から覚めたもののように
おまえは おのれの位置を確かめようとし
答えるべき言葉を見出だしかねて
あげくにポケットの中を探ったりする
何をしているの?
もう一度麗らかな声がして
見上げれば ただ青い空
![]()
本間義人詩集 その日 その人々
エリア・ポエジア叢書D
土曜美術社出版販売
「春の声」のあどけない声、「叫び」の小さな叫び、「砂」の美しさが印象に残ります。印象に引きずりこまれるように読んで沁みました。「その日 その人々」の姿かたち、思いを流してしまうことなく、書き記すことで心に刻んでおこうという、さりげないけれども、しっかりとした意志を感じました。(下前)