Baby's Heart,Toy's Spirut
君との出会いと別れを
引き換えに
私は誰と出会うんだろう
刹那に
あまりにも大きなプレゼントをくれた君に
感謝しているんだよ
ほんとうはもう一度
君に会いたいと願い
ありえないと苦笑する
Baby's Heart
This is Free の正札をつけて
いつもみたいにかっこつけて
おもちゃやの店頭で待ってるわ!
Toy's Spirit
村上うさぎ詩集
「ベイビーズハート トイズスピリット」
ビレッジプレス刊
詩は言葉と沈黙のあいだにあるもの。言葉にならないものを語ろうとすること。言葉を沈黙の静けさに返すということ。詩を読むことはだから、言葉が生まれてくるその場に改めて居合わせるということであり、言葉が沈黙の海に沈む、そのさざなみを聞き取るということでもある。
村上うさぎさんの詩集「ベイビーズハート トイズスピリット」を読んで、僕はそのことを改めて感じたのだった。沈黙とは不在のことだ。
大学のころから書きため始めた詩をまとめた一冊。本当に長い時間が必要だったのだ。難治性てんかんという障がいをもつ翼くんとの長い時間、いとおしい毎日と、そして突然の別れ。長い時間の中で、言葉にならない気持ちの海から、ぽつりぽつりと結晶するようにして生まれた言葉。うさぎさんを詩集の方へ押し出したのは、たぶん翼くんだ。不在(沈黙)という強い場のちから。それは寂しさに似ているけれども、むしろ失うことで始まるもの。喪失のただ中に動くもの。透明で、ポジティブで、弾けているもの。ベイビーズハートでトイズスピリットであるもののことだ。(下前)