僕は寄る辺がない
              下前幸一



底冷えの頃
雨に痩せている

モノクロームの記憶は退き
待ち受けに
砂まじりの風が流れていく

非定着の痛みは拡散し
旗は濡れ落ちている
暗黙は腰砕けて

この夕刻に僕は寄る辺がなく
蒸発した思いと
今という廃屋に佇む

瞬く間にかき消えた
僕が今、ここにあるという理由
水没してしまった言葉

不確かな気持ちを折りたためないまま
僕はこの場所に寄る辺がなく
仮泊の時を持て余す

今日という一日の終わりに
思考をどのように閉じたらいいのだろう

柔らかく窒息していくものに
意を添えることもできないまま
今この時に、僕は寄る辺がない

殺到し
ひしめき
暴落する今

喝采し
雷同し、賛美し
今を押し殺していく、今

斉唱する調べに流されて
届かない真実が
また詐称されている

僕はこの場所に寄る辺がない

この場所の
使い捨てられた存在証明
たらい回しの小さな命や
補助金カットや首切りや
置き捨てにする自助努力や
監視カメラの疑心暗鬼や
難民キャンプの見捨てられた日没や
占領地のセキュリティーや
在日米軍の実弾演習や
闇パスポートや期限切れビザや
無保険、無年金の痩せた将来や
時給六八○円の自己責任や
囲い込まれた入所式や
死刑執行や行き倒れや
いじめやシカトや暴力や
強制退去や立ち入り禁止や
書き換えられた記憶や過去に
寄る辺がない

今、この場所に
僕は寄る辺がない

雨ざらしの軒先や
公園の茂みに寄り添って
肩をすぼめている、今

息を殺して見つめる者を
誰もが見ないふりをする
寄る辺のない、今

つぼみが小さくふくらみはじめている
季節の僕は傍観者だ
寄る辺なく座り込んでいる

この時代に
僕は寄る辺がない

僕はこの国に寄る辺がない

今日という一日の始まりに
思考をどのように始めたらいいのだろう

僕という重みを
この寄る辺ない今という
窪みに待たせたまま