2011年3月の
下前幸一
2011年3月の
ただ呆然と
立ち尽くす日々
焼け跡にくすぶる
死の臭いと
水没した暮らしの
宙吊りの思い
泥の海に
乗り上げた大型漁船の
傾いた影
ひしゃげた鉄骨と
視界を遮るガレキ
薄く
キレツは偏在する
ヨウ素131の微粒子として
一千年の想定外に
自分を見失ったまま
今ここに縛られて
動けない今
物思いの薄皮がめくれ
血が滲んでいた
言葉が見つからない
がんばろう日本や
日本は強い国
の、押し付けがましい合唱に
言葉はむしろ
沈黙の深みへ
沈む
静かに音もなく
通り過ぎる時間の傍らで
思い出を探していた
また流れ始めるまで |