二〇一四年のいま



 私たちは曝されているのです
 だれのせいでもなく
 何のためでもなく
 思いも及ばぬ空の深みから
 
 白紙の問いに
 私たちは曝されているのです



二〇一四年二月某日
茨木市福祉文化会館の
集会室の闇

スクリーンには
沖縄やんばるの
東村(ひがしそん)高江
ヘリパッド建設強行に反対し
座り込む村人たち

米軍北部訓練場
低く旋回する軍用ヘリの爆音と
爆撃に剥ぎ取られた山
「ベトナム村」

標的の村

「通行妨害」という名の
国家による威嚇訴訟
沖縄防衛局は現場に行ったことのない七歳の女の子まで告発した

怒号の中
強行搬入される資材
三線を奏で
口笛を吹き
歌う「安里屋ユンタ」

 〈いまここに僕はいて
 〈しかし、あなたはどこにいるのかと
 〈深く問われている気がする

沖縄県議会決議
全市町村議会決議
全首長表明
怒りの一〇万人県民大会をあざ笑うかのような
電話一本の通告
新型輸送機オスプレイ配備の

「配備自体はアメリカ政府の基本方針で…
どうしろこうしろという話ではない」(野田佳彦首相)

二〇一二年九月二七日
普天間飛行場の四つのゲートが
配備強行に怒る人々によって完全封鎖された

記憶の底から疼く
奪われ、踏みにじられた痛み

座り込む人々に襲いかかり
ごぼう抜きにする警官
悔しさに涙を流しながら女性が歌い続けていた

頭上、見えない空を
オスプレイがホバリングする

嘲笑うように
音もなく照準を向けて

 〈僕は確かにここにいて
 〈形のない思いに苛まれているのだけれど

伝えなければならないことが踏み潰され
見つめなければならないことが歪められ
記憶されなければならないことが消されている

 〈そして僕は遠いここ
 〈遠い場所にいる

アベノミクス 東京オリンピック リニア新幹線…
足元から地崩れて、夢が悪夢になだれ込んでいく
そんな今、この場所に

「美しい日本
日本を取り戻す」と
昨日の選挙ポスターは今も繰り返し

主権回復の日
二〇一三年四月二四日
沖縄を米軍に置き去り、捨石にした「屈辱の日」
安倍政権は日本の独立を祝い
「天皇陛下万歳!」を三唱した

尖閣、竹島
ナショナルな感情を掻き立てて
とめどなく軍備は拡張される

生活保護は
慈悲もなく削減され
福祉は置き去りにされている

「福島原発の状況は
コントロールされています
汚染水は完全にブロックされています」という
世界へのプレゼンテーション
汚染水は漏れ、溢れ、流れ
溶け落ちた核燃料の状態も分からないまま

福島の人権はどこにあるのか

 〈僕たちのいま 僕たちの社会の
 〈メルトダウンはすでに始まっている

蔓延するブラック企業
過重ノルマ サービス残業 自腹 暴力 いびり 監視 …
日本郵便とセブン&アイ とワタミ…
あるいは国家戦略特区

合法と違法の境界がなし崩しに溶解する

居場所を失い
ダンボールの寝床に横たわる野宿者たち
あるいは明日の分からない
非正規の暮れ

「従軍慰安婦はどこの国にもあった」
と「会長の職はさておき」断ずる籾井勝人NHK会長
記者の指摘に
「では、いま全部取り消します」

天皇を現御神(あきつかみ)と奉るNHK長谷川三千子経営委員
『南京大虐殺』はほぼ捏造の産物であると断言した百田尚樹経営委員

安倍政権は個人の見解は問題にしないという

暴言 妄言 虚偽
歪曲、居直りが蔓延る底なしの沼に
愛国心の花がうごめく

そして在特会のデモ隊は
「良い朝鮮人も、悪い朝鮮人も、死ね!」と叫び

政権は朝鮮高校を無償化から除外し
自治体は公的援助を打ち切り

決然として安倍晋三首相は靖国神社へと参拝する
十五年戦争を賛美し
A級戦犯を奉り
ポツダム宣言を否定する

 〈どんな日本を取り戻そうというのだろう

空気が少しずつ歪んでいく
薄い空気が息苦しく
鋭く 刃のように刺さってくる

熱した空気が「自虐」を糾弾し
自尊心を吹聴する

教育長は君が代の口元を監視し
採用を拒否し
首を切る

積極的平和主義
とは武器輸出
原発輸出
集団的自衛権という名の
戦争同盟
軍事力による「平和」

何が秘密かは秘密という
秘密保護の闇が音もなく侵食する

大音量のデモや集会はテロ行為に等しいという石破茂自民党幹事長

憲法解釈の最高責任者は私であると
豪語する安倍晋三首相

つまり私が憲法である?

 〈虚に虚を取り繕って
 〈僕たちはどこへ運ばれているのだろう。

そして僕はいま
茨木市福祉会館の集会室の暗闇で
言葉もないまま
スクリーンに目を凝らしている

強制排除されていく人々を見つめ
あふれる涙をこらえながら
女性が「安里屋ユンタ」を歌っていた

彼女はなにを見ていたのだろう
同じウチナンチューの警官たちと
その背後に

 〈そこに僕たちはいる