詩集「あかねいろの国」
水島睦枝
雨
やわらかい ぺるしゃねこの
毛をなでるように
ふくろうの かぜきり羽の 細かい羽毛が
あおばかぜを よこぎっていくように
わたしの なかの あめは
ふりつづく
あまりに ほのかでとらえられない
くちびるを はんびらきにして
あめをうける
何世紀もまえ
たしかに わたしが 動かした
きんにくの うごきを
どこかしっているようなのに
あめは わたしの
くちぴる に ふれない
わたしの なかの
あめは
古代がらすの 半とうめいさを
たべている
そんなこと 知らなくていいんだろ
言い放った男が
すりがらすのように にじんでいく
アスピリンと
ハブラシをいれた
すりがらすの
リュックサックを せおって
わたしは 旅の途中
みずくさの しろい花が
細かいあめの 水紋に
にじんで
ゆれている
あめは
わたしの
そとでも ふっているのか
わたしの 血も 地球も
閉鎖循環系
みる
夕日が すき
夕焼けが すき
茜色の空気に ひたっているのが すき
流れていく時を みているのが すき
仏教の修行僧が
美しい女を みる
死んで
蒼ざめて
緑色にふくれあがり
死臭を放って
くずれて
液体となり
白骨となるまで
居る
そばに居る
みる
みている
省略しないで
死臭に そまりもしないで
私の中に
みているものを 飼っている
みているものが すき
目をそらさないものが すき
それは 毎日
めしを食らって
大きくなる
私は 私の中の
みているものが すき
こわいものから
目が はなせないように
すき
*水島さんの詩と妹さんの人形作りとの共同作業としての詩集です。お互いがお互いをモチーフにして、作品を作る。なかなか面白い試みです。
詩では「みる」という詩の中の「私の中の みているもの」のことがとても気になります。