雨がひそひそ降る夜は

雨がひそひそ降る夜は 影がはなれて歩きますよ。 えたいの知れない芦原のざわめきをはるか足下に まっ暗闇の土手の小道を ぼくは ゆめもうつつもいれものにして たどって行くのです。 もっと貧しくありたいよ もっと悲しくありたいよ。 ごらんなさい人はみな わたくしのものに囲われて ごらんなさい人はみな わたくしのものに奪われて。 雨がひそひそ降る夜は 影が背中をよぎりますよ。 夜は、無数の影たちのつどい ホラ! はるか満天に影たちが 駆けつけて行くのです。 そして夜は極彩色の宴 囁きあい戯れあい睦みあう 満天の交感。 ああ なんという季節。 睦みあった影たちの 不良少女のような ものものへの帰還。 朝露に濡れた竹林に見えかくれする影。 晴れ渡った三月の小径。 こもれびの五月。 焼けたアスファルトにはりついた 佇立する孤独。 しんと濡れた十月の並木道に 点在する、精。 影たちの忍びやかな含み笑い あるいは 凝視する沈黙。 雨がひそひそ降る夜は 影がはなれて歩きますよ。

戻る

ホームページ