あんたに捧げるぼくの詩

あんたはどんよりとした空に 痩せた手のひらをかざした。 小さな石ころのような カーン、カーンと鳴り渡る記憶。 反響を腕の下にたずさえて あんたは大通りを行きつ戻りつした。 ふと、思い出したように立ち止まり 螺旋階段を登っていくあんた。 中二階で、ぺたんと腰を下ろし 頬杖をついて眺めていた大通り。 突然、あんたは見失われる。 そして突然、あんたは何もすることがないということに 気づく、そこに腰を下ろしたまま。 誰もが置いてけぼりをくいたくはないんだ つまり、そういうこと。 あんたは何ひとつすることがなくて ひどく悲しい思いにとらわれる。 あんたの目前で、光景がずれる。 その速度に、あんたは漠然とした意志を感じ あわててその理想をしまい込む。 誰も見たものはいなかったろうな、と キョロキョロする。 手垢に黄ばんだ大学ノートのような理想。 あんたはきりもみしながら落下する その中二階から軒下へ。 だけど恐怖を悟られたくはないものだから ひきつる顔で「愛しているよ」なんて告げたりする。 人しれないあんたの呟きが くるくると螺旋を描いて、地に落ちる。 熟して落ちた柿のような、ぺちゃという音 あんたは視界の片隅で目撃する。 悩みない者のように、大通りを歩き始めた。 あんたの孤独がちょっとひんやりとして心地良かった。 言うなれば「二枚舌」のあんた。 あまりにかけ離れてしまったつじつまを取りつくろうと 朝から晩までかけずりまわったあげく ほとぼりの冷めるまで、顔見せできないあんた。 アパートの部屋の片隅にうずくまって いつまでも、誰も呼びには来てくれないものだから もう生きていく資格もないんだ、と思い込むあんた。 あんたの首筋が、キリキリと軋む。 冷たく白い日射が、あんたの窓枠に張りついている。 影がくっきりと大通りを型どっている。 あんたは”何か” 欠落そのもの そして、とほうもない矛盾を渡り歩く 誠実な旅人。 あんたは吹く 完璧な空を浸食するいらだたしいすきま風。 誰もが気まずい思いをする。 あんたをとことん好きになる一歩手前で。 またたくまに一年が通り過ぎてしまう。 勝利を祝する集会の片隅でひとり、きょとんとするあんた。 ぬすっとの脅えを身にまとって、あんたは子犬の頭をなでる。 決して人を名指したりはしないものだから 誰もが自分のことじゃないと思い込んでしまう。 つまりは人を 愛したことも、愛されたこともないのだという、あんたに関する風評に あんたはひどく寂しい思いをする。 代弁者たちが、あんたを計る。 小学生にようにぴんと背中を伸ばしたあんたにメジャーが張り巡らされ そして、あんたは重たい鉄のドームのようなものの中に横たえられ そして、あんたは薬物反応を確かめられ そして、あんたはすこし怠け者の正常人としての烙印をちょうだいする。 身づくろいをすませて、大通りに再び足を踏み出したあんたは 突然、ひどく惨めに思えてくる あんた自身が、そして 世界が。 世界そのもののように、しょぼくれたあんた。 時おり、どこからか視線があんたを掠めて過ぎる。 それは矢のようにあんたの肩口を掠めて 遠く、はるかに飛んでいってしまう。 あんたはその行方に思いをはせる。 まどろみから目覚めたあんたは、億人の聖地、ベナレスの朝にいる。 寝ぼけまなこで、石段を降りていく 顔を洗い、体を洗い、沐浴する人々のあいだに。 ずいぶん考えわずらったあとで 黄色いガンジス河の流れに身を投げる。 死者たちの灰や、人や牛のウンコや、その他もろもろ 汚物と聖とをないまぜにした、大きく黄色い流れに 頭から、ザブン と、そのとき、あんたの中で、なにかが、コトリと、落ちた。

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