あとがき
この夏は、つらい夏だった。厳しい暑さが肉体的につらかったということも あるけれども、それよりも、何というか、今までは自明のことのように前提と してきたことがらが、ある日突然、あるいは日一日と崩れ、かき消えてしまう ような感じ。足場の喪失感とともに、感じられなくなったのは、希望というも の。このような状況の中で、詩は、いったい何でありうるのか、という漠然と した自問。答え以前に、問いそのものの無力感に溺れていた。 ある夜、偶然に、テレビで見た映像、それはニューヨークのビルにジェット 機が突っ込んでいくという、信じられない光景だったのだけれど、僕は言葉も なく、その意味もとらえ切れないまま、ぼうぜんと見入っていた。 あの時、何かが起こった。だけどそれはいったい何なのだろう。僕は今も分 からないままだ。 だけど、テロ、報復、戦争協力、といったあれくるう言説やスローガンでは、 何ひとつ本当のことには届かないのではないかと思っている。