コップの縁のギリギリのところまで 金井雄二
まず最初に部屋の中をかたづけた。窓をみがき、床をしっかりとふ いた。空はよく晴れた夜空で、梅雨はどこかへいってしまったかの ようだった。ぼくにはそれが少し悲しかった。なぜって夜の雨を見 ていたい気分でもあったから。床をふいたあとは、さて、何をすれ ばいいのかを思った。うっすらとホコリのたまったブラインドの羽 を、一枚一枚ていねいにふいた。テレビはつけなかった。もちろん ラジオもステレオも。熱帯夜だったかもしれないが、そんなに暑さ は感じなかった。鍋にもコーヒーカップにも、水は一滴もついてい なかった。洗濯物は乾燥しきって、タンスのなかにおさまっていた。 七月九日、夜。そうやってぼくは新しい家族の一員を迎えるべく準 備をし、コップの縁のギリギリのところまで冷たいビールを注いだ。