エルゴレア 下前幸一
影ひとつない 荒れた大地に 焼けた大気がショートする 頭のどこか奥底で 微かなセミの鳴き声がする 天涯と 一寸の孤独 純粋な熱と光と 遠く 完璧な 空 エルゴレア 僕は歩いた 見渡す限り 誰もいない ただ 焼けた土と 砂と岩 エルゴレア 僕は歩いた 僕の内部で 言葉は 疑いのように周回していた 言葉は否定を欲望し 言葉は自らに執着していた 言葉は 兆しのように蒸発していた 遠くにマッチ箱のような建物と やぐらのようなものが見えた 荒れた皮膚のような大地が 静かに燃えていた 断崖のような岩山がそびえていた わずかな植物が 地にしがみついていた 送電線の脇で 幹線道路は焼けていた 幾度も僕は振りかえり 僕自身との距離を計っていた エルゴレア 言葉以前のものに 僕は晒され 僕は歩いた オアシス近くの 痩せた畑 砂漠の湧き水 水たまりに浸す手のひらの 鮮烈な感覚 エルゴレア 午後 僕は 僕のなにかを 乾かしたいと思った