遠景に抱かれて               下前幸一

                       遠景に抱かれて 僕らは帰る 行くことはない ただ帰るのだ 土手と鉄塔の記憶をたどり 日の刻印をしるべに 光る埃の輪郭 時を亡くした肖像 臭覚の朽ちた記憶 忘れられない 水に沈んだ 冬日の約束 溶けていく君の髪 いつの日か水底の 廃屋から呼びかける あれは君だったのだろうか その場所へ 行くことはない ただ帰るのだ ホホエミが凍てて 乾いた故郷の 暗い意図 人里の焦燥へと

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