風景      綾部清隆

              風も波も 静止する 八月 車体をけだるそうに揺らして 一輛のディーゼル車が 原野の生命線上に現れ 無人駅に停車すると 無量の微光が散乱する あてのない焦点で もてあそぶわたしに 輪郭をともなわない風景は 遠い想いを誘う あまりにも涼やかだった 母の死の誤算 病巣に縊られた父の死の迷走 そして故郷にはむかった 負の視点から 見据えてきた風景 だが これらはみな この湿原に埋葬しよう 降りる人のいない駅は 旅人を拒絶する 行くあてのないあなたの 旅さえも 風景の裏側へ 抜けたいと希いながらも 日没が気にかかり はまなすの咲く砂浜へと続く 小道を下りると 砂丘に迫り上がる海と ひとつになる わたしの影

*詩集「原野暮色」より
  発行 北海詩人社  北広島市栄町 1-2-1,708

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