詩集「吹き寄せ花」 武藤ゆかり 著
枯葉
川下に立っているあなたに気づき 枯葉に手紙を書いて そっと水に流した けれど中ほどで小さな渦が 枯葉を飲み込んでしまった もう一枚拾って 再び流してみると 橋をくぐって淵のあたりまで 揺れていくのが見えた けれどあなたの影はなかった あの小さな枯葉に さようならと書いたのか ありがとうと書いたのか 今ではもう覚えていない 届かなかった言葉は 初めから言わなかったも同じこと 人は去り 枯葉は沈み 川もいつか干からびてしまう 今年もまた枯葉が舞う季節 けれどもう手紙は書かない 寂しさを水に浮かべたりしない秋の祈り
自分を生きるようでいて 誰かの影をたどっている 自分を語るようでいて 誰かの嘘をなぞっている 誰かに認められたいお前 誰かを認めたくないお前 ほころぶ花を見せたいのなら 枯れてゆく身も晒しなよ 呼び声だけが空しく響く 秋の祈りに錆が浮き 敵も味方も作れずにいる