詩集「愛、ゴマフアザラ詩」 佐相憲一 著
Today
酔いも醒めた世紀の深夜
見慣れた殺傷を畳む指に
染みついた 闇のインク
溶かしてくれる熟い涙を待っていた
誤爆された過去から
冷笑された希望を救い出し
世代の抹殺その黙叫の
彼方へ
論じられた公式と公式破壊。1990年代はビタミン
不足だった。発言権は先行世代に占有され、卑屈こそ
謙虚の証とされ、君達若者は徹底的にコケにされた。
〈昔の若者は凄かった〉そりゃどうも。1960年代
の若者1970年代の若者が1980年代はこうこう
である1990年代はこうこうであると決めつける世
紀の犯罪を君は目撃し続けた。1980年代初頭、中
学生の君は青春した。燃える恋をし草野球を楽しんだ。
だが彼らが時代と社会に植えつけたのは“茶化し”と
“倦怠”だった。彼らはポップカルチャーを強調した
が、それは高校生の君のポップ感覚とは決定的にずれ
ていた。全てをバカにし意味を剥奪するのが彼らのポ
ップであり、男と女が互いに焦がれ胸ときめかせるそ
の鼓動こそが君のポップであった。1990年代に入
り彼らは“混沌の時代”を作った。庶民生活の蔑視と
毒々しいひねり哲学を抑制されたどっちつかず精神で
たれ流し続けたが、20代の君はと言えばストレートな
声こそ聴きたかった。期待したのは時代の反主流派達
だが、こちらの方は1960年代1970年代そのま
まの思考を君に押しつけようとした。驚くべきことに
彼らは君が世界の旅の空で体験した素晴らしいふれあ
いを語ると蔑みの目でこう言った、〈甘い!〉。彼らに
期待した君がバカだった。
(ゲンダイシジン達よ、今ここを読んで胸が痛まない
としたら、ホント救いようがないよ。
ビンラディン&ブッシュと似たようなもんだ)
世紀冒頭の絶叫だった
厳寒の狂海 厳美な荒波 宗谷岬で
全身涙の君の反撃がついに孵化したのだ
All right!
重い足 退行する心 黙りこむ口
君の中の沈滞するものを君の詩が激励して
痛々しくみじめな君のスキップが開始された
だがどうだ!
君の行為は君の心を軽くし足を軽くし
世紀初の夏
フットワークは自然体に近づいていた
回復の扉 生のスキップがこじ開けて
夢は燦然と復活したのだ
Twilight またあした!
寄せる波に見えてきたもの
500万年の つながり と 傷あと
人間だ! 動物だ! 草だ木だ!
土、水、陽光、風! 地球だ!
友達だ! 友達だ! 心は草野球だ!
君の詩が君のスキップを決定的にしたのだ
Today
陳腐視されたものの中から普遍を救い出す時だ
今こそ命のダイレクトメールを送りたい
戦争に未来はない!
ごまかすな!
人殺しに加担するな!
死んだ詩を書くな!
地球の上に立て!
(さあ シャウトの後は“語り”だよ)
〈心の“病”〉にかからぬ方がビョーキに近い
このストレスの体系
変えていきたいね
少しずつでも みんなでさ
優しさを嘲笑うなんてごめんだね
もっとラヴソングをうたおうよ
本当のヒーリングをめざして
スキップ スキップ 果てしないスキップ
タテの時代から ヨコの時代へ
ポップにディープにヘヴィーにクールにワイルドに
スキップさ!
国語辞典も素晴らしいが人生はもっと素晴らしい筈だ
比喩が比喩を超えて
リアルタイムの人生を詩う時
腐敗したゲンダイシの向こうに 現在詩が見えてくる
ああ
空は海洋に紅葉をちりばめて
アンコールのような この実りの秋
ピックリマークを超えた驚きに君はふるえる
(生きている。)
(あなたが好きだ。)
そして冬
新しい冬
君は今 新たな港に立っている。
*詩集「愛、ゴマフアザラ詩」 発行 土曜美術社 東京都新宿区西早稲田3-31-8
*後から来た者の特権(ならざる特権)を率直に発散しているという印象です。
その率直さには好感を持ちますが、ある種のあやうさもはらんでいると思います。
もちろん筆者は、自覚したうえで、あえて言葉をたぎっていると思いますが…。
新しい波を感じさせてくれる詩集です。