詩集「ぐりんかあど」 村上悦代 著
りんご
電気炬燵の端で 林檎が腐っていく 芯から腐り始めているのか 締め切った部屋の中で 香りもなく 腐っていくのを 見つめるのが日課になってしまった 触ることはしない リズムのない時 失われているのは私の優しさ 林檎の影は昨日のまま 私が私を犯している 林檎によって 風は入らない 人声もしない 私がたてる物音と視線に 耐えているかどうかわからない林檎 黴はうまれない 油虫も寄り付かない 少しづつ笑顔的な筋が現れ 時々 なぜ 林檎だけを見て暮らすのかと 手をのばしたくなるが 私の呼吸と視線だけが林檎を 林檎らしくしている今は 大声をあげれば すべてが始まるような すべてが終わるような 思いもあるが そんな私を軽蔑する 重い心が 腐乱の際の 香りを 探っている