花・野菜詩集U 羽生槙子著
からすと菜の花とわたしと
庭のはたけの菜の花が満開になった
空は雲一つなく春がすみで
からすの群が
上昇気流に乗って高く高く舞い上がって
カァカァ鳴きさわいだ
からすも春で 菜の花も春で
わたしも春なんておかしいや
って 言いたいけれど
わたしも春
きのこ
秋 庭のはたけにきのこが生えます
「食べられないきのこ」とわたしは決めていますから
生えて朽ちるだけの
名を知らないきのこです
ある日生まれ
世界を見 日に輝き 夜を知り
かさを開き 世界を見終わって
消えたきのこ
きのこの生えていた土が 黒々と
広々として
消えるというのは無になることではないと
わたしに感じさせます
しゅんぎく
冬の日なたの
はたけにすわりこんで
しゅんぎくを摘んでいると
背中がぽっかぽっかあたたまって
お日さまの子どもおんぶしているみたい
せなの子ゆりあげてやりたくなる
畑仕事
わたしはしょっちゅう
生きているのが恥ずかしい人間になる
そういう時 庭に出て畑仕事をすると
いつのまにか無心に畑仕事をしていて
屈託から解放されている
そんな畑仕事の効用について考えようとすると
ふと若い日のことを思い出す
夕暮れになって
山のだんだん畑の仕事を終えて
農具積んだ車引いて疲れきって家にたどりついた時
庭の梅が宵やみに香った
見ると うす闇に白い花が浮き出して咲いていて
嬉しかったこと
それはわたしが考えようとしたことと
つながりはないのだけれど
あそこからずうっとつづいていることだけれど
*武蔵野書房刊
185国分寺市本多2−9−8
畑で野菜をつくる羽生さんと野菜たちとのモノローグ的な対話が、ゆたかな感受性の世界を立ち上げていく。そのような詩集です。
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