廃墟 大井康暢
烏が二三羽 濡れながら電線にとまり 小雨ふる肌寒い六月のある日 生まれたての産毛のように眩しかった緑は 今はすっかり色を濃くして 雨のなかにみずみずしく光っている 烏は 毛羽立ち 濡れたまま動かない 寒いのだ 烏の群れている無人の屋敷は 華麗に荒れている 落ちそうなシャンデリアと 倒れかかったピアノが 小田急ロマンスカーの窓から見え 東の空は真っ黒な雨雲ばかりで 海とすれすれに 水平線が一筋明るい ― 霧の中から 高層建築がぼんやり浮かび上がる まるで戦艦大和の亡霊のように 大和に対する日本人の思いの深さを現わして その重さに 小さな島国は沈んでしまいそうだ 戦艦が沖縄海上で沈んだように ― 高層ビルは 日本人の吐け口で怨念なのだろう 恐竜のように海を支配していたものは いま 雑踏する繁華街の上にそびえている 雨のなかを烏が鳴いている 世界を呪っているようだ 大きなダミ声で 阿呆アホウと鳴いている 選挙告示の朝だ