雨−ガダルカナル島ホニアラ市にて           花崎皋平

ホニアラのナショナルミュージアムの庭で にわか雨にあう 昔 村にあった姿の 草葺きのミーティングハウスで 雨やどり 椰子の葉をかさねた軒先から 雨がひとつながりで落ちてくる 大さな熱帯の樹が芝生の向こうに見えている その樹々の下に どっしりとした三角の屋根 彫刻をほどこした三本の柱がある住居 左手にはカヌーを収める丈の高い小屋 緑の背景に 柔らかい直線 簡素な美しさ また雨足がつよまってきた 雨は人の心を静め 内側へと向かわせる 雨に打たれると 石はまるくなる 葉は ゆれる 高い枝は ゆっくりと語りだす                一九九九年三月

瀬蒿(せだけ)の浜で

入江の海は やさしい波を寄せ 低い丘に囲まれた 小さな集落は瞑想している 右手の岬の 米国海兵隊基地キャンプ・シュワブが 入り日を受けて黒い影を落としている その先のジュゴンが暮らす海に 普天間にあるヘリコプター基地を移そうという 十二月なのに汗ばむような気温 ふかみどりいろの森 五十年位かかることになるだろうか もし基地が移設されてしまったら この海が里山とのやさしい交わりをとりもどすまでに 大宜味村(おぎみそん)のルカちゃんが お母さんのケイさんより年上になる頃だ そのころには わたしはもうこの世にいない どうなるかを見とどけることはできない 誰もいない浜にたたずむ わたしの怒りは わたし自身にしか伝わらない 手紙を書いた 沖縄県知事と名護市長に それは読まれずに くずかご行きかもしれない 読まれても すぐ忘れられるだけかもしれない でも 思うところをつづった 心をこめて それしか わたしにできることはないから                   一九九九年十二月

*花崎皋平 はなざき・こうへい 一九四〇年代末からの若い頃、現代詩に夢中で、
訳詩、創作に熱中しました。「荒地」登場の頃です。老年になって再び詩心を取り戻して
います。社会思想や哲学の在野の著述業です。小樽在住。
*「想像」第88号より
 想像発行所 横浜市港北区下田町6‐14‐33、羽生方

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