春雨の降るなかで 大西和雄
春雨が降っている 廃校になった小学校の校庭にたっている 春雨にまぎれ 子供のころの自分がゆれている 突然背後に子供達の歓声がわきあがり 次第に近づき通りこしていき 身につけてきたものとひきかえに 失くしていったものの大きさを思い 遠くをまさぐっている 何事もなかったように春雨は降り続き あたりは死んだように静かだ雨の日
雨だれの音 雨のにおいとしめり 雨と私とゆったり共鳴しあい 静寂のなかへとけこんでいく なにものかが不意に 雨と私をつなぐ糸を ケシゴムで消すように すうっすっと消していく 大切なオモチャをとりあげられ ワッと泣きだした子供のころのように 泣き叫びたい気持になっている