炎の木 芳賀清一

                               それは種からはえてきたものではない。 途中で接ぎ木されている。 何度も何度も接ぎ木されている。 実は自分のためにではなく、他人に収穫されるために実っている。 自分の都合で生きているのではない。 相手の都合で、生かされているのだ。 だから、切り倒される。 新しい天に着地する。 ふむ。 雲の上から首を出して、 おまえをのぞいてみる。 ふむ。 こわれてゆくね。 古い家。 うまれてくるね。 新しい子供。 ふむ。ふむ。 野原の真ん中で一本の木が燃えている。 葉の一枚一枚が炎の形に変化している。 声が言う。そのままとどまれ。 赤い、炎の形をした一本の木が、 その野原の真ん中で永遠に燃え続けよ。

*メロス63 発行 水星舎 弘前市富田3−6−13
*「炎の木」という情景の強いイメージを思い、それが何をあらわしているのかを考えています。
 そして「ふむ。」という声、「とどまれ」という命令。それは誰のものなのか。
 疑問が宙づりにされるような不思議な感触があります。

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