未だ醒めやらぬ男よ
	　　　　　　　　　　　　　　　　　岡本清周
　　　　　　　　　　　　　

　　　　　　　　　
	臍の緒で繋がれたまま
	母の羊水に漂い
	未だ
	醒めやらぬ男を
	切り捨て
	薬物が沈殿する水底から
	水浸しになって
	浮上してきた都市よ
	君たちの都市は
	薬物によって
	夜も幻覚と
	刺激を求め
	目覚め
	ていなければならない
	真っ赤なドレス
	真っ赤なヒール
	真っ赤なソファ
	真っ赤なワイン
	ブルーな　夜会
	ブルーな　音楽
	ブルーな　映画
	ブルーな　衝撃…
	君たちの都市は
	欲望によって
	砂漠をさ迷い
	沃地を求め
	目覚め
	つづけなくてはならない
	のだ…


	羊水に醒めやらぬ男よ
	不眠症の都市が
	宇宙の核を
	支配し
	この
	おぞましく肥満していく
	苦悩する都市の
	催眠にかけられた者たちの
	果てを傍観
	する訳にはいかないのだ
	羊水を
	泳ぎわたり
	非日常に生れいで
	カオスを征服しうる詩語を
	質草に
	不眠症の都市と
	催眠に浮遊する者たちとを
	真綿の花弁のなかに誘い
	しばし
	潜心の椅子を差し出し
	得ぬものかと
	……
	羊水に漂い
	未だ
	醒めやらぬ男よ
	日常を侵略する
	禁断のエロスに呪縛された
	都市に
	目覚めきて
	苦悩する都市と
	群れあう半睡の者たちとの
	急所に	
	打刻し
	一夜にして
	都市と者たちとを
	薬物の呪縛より解き放てる
	ほどの
	羊水のなかで夢見た
	カオス
	の先に横たう詩語群の
	万丈の詩語
	たったひとつ
	いま此処に取り出し
	得ぬものかと…