イヌを飼う日々
モリタクミコ
子供のころからこわくて
近寄ろうとも思わなかったのに
梅雨が明けてからイヌを飼う夢を見る
毎晩、違うイヌを飼っている
きのうは、白いハスキーをつれて駅のむこうの市場に行って
「あらこんなところに。盲導犬かしら」という声をしりめに
イヌがかじったゴボ天のお金を払ったところで
目が覚めて三時半だった
台所で麦茶を飲んで
すっかり目がさえちゃったなと思ったけれど
次の瞬間には
手のひらに入るくらい小さい子供のスピッツを
ベランダで飼っていて
細い首が首輪からスルリとぬけて
となりとの境をくぐりぬけて行ってしまった。
結局、五時に目が覚めた
たまにしか使わないパーコレーターで豆コーヒーをいれて
汗でよれたパジャマのまま
ベランダで飲んだ
八時半、
だんだん暑くなっていくベランダから引き上げて
職場に仮病の電話をしたころ
隣の女の子が保育園に行く声がした
この子にモンシロチョウの幼虫を見せてもらったことがある
すこし眠ったらイヌを探しに行こう
今度はベランダではなく、一緒に部屋に住んで
隣の子にも見せてあげよう
毛布だけを持ってきて、テレビの前に横になった
体も重くなっていくのに
全然ねむたくならないと思っていたら
コッカースパニエルをつれて堤防を散歩している夢を見たのは
お昼の一時すぎだった
コッカースパニエルは賢くて
かわいげがないように見えた
*モリタクミコさんは最近、小説のほうにも挑戦されているようで、小説の論理が詩にも良い影響を与えているように思います。