いつのまにかゆたかになってしまって
いつのまにかゆたかになってしまって
きみは夜が とてつもなく恐ろしくなり
とてつもなく不気味になり
得体の知れないざわめく影や
うす気味の悪い夜の洞窟を避ける。
いつにまにかゆたかになってしまって
きみは夜が とてつもなく恐ろしくなり
窓には二重サッシを
扉にはがんじょうな鍵を
そして口にはチャックをかける。
夜
ぼくら時のたつのも忘れて話しあった夜には
聞いた とぎれた会話のすきまに
けものたちの遠吠えや
もりあがる潮のうなり
草原を走る風
かすかな葉擦れの音
虫たちの囁き
えものを狙う肉食獣のけはい
密林にひそむ大蛇の濡れた感触
叫び
それから 果てしない静寂。
ありとあらゆる未知の囁きにつつまれて
ぼくら語りあった
新しい時代や世の中 変革のこと。
解放区の熱帯夜
砂漠地のこごえる夜
戒厳令の闇夜に
跳梁する精たちの声に耳をすませた。
いつのまにかゆたかになってしまって
きみは夜をとおざける
もう風なんかかんじられもしないだろう。
いちのまにかゆたかになってしまって
きみは夜が とてつもなく怖くなり
いつもたくらみやさくぼうが きみの金庫を狙っているという
使い古された警句を信じるようになり
きみは夜を遠ざける。
見えるものだけに安住し
教えられるものだけを覚え込み
知っていることだけをくりかえす。
ひとり閉じこもる
あるいは 閉じこめられる
眠れないながい夜を
金庫の前で年老いる
とてもがんじょうな からっぽの金庫。
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