時層
働 淳
テーマパークが消えた
トンネルの水槽を泳いでいた水族館の魚たち
植物園の色とりどりの蝶や草花
唸りをあげて動いていたアトラクションの乗物も
それぞれに行き先が決まって運ばれ
廃墟となった建物があとに残っている
百年以上続いた炭鉱が閉山した
その後の町の活性化のためと作られた
地球博物遊園地 ネイブルランド*
九州のへそ(ネイブル)は
開園から三年半で無くなった
小学生のころ
この廃墟の場所は海だった
黒い砂浜に囲まれた海
その中に赤い大きな魚が泳いでいて
学校から帰ると魚を釣りに集まった
海は堤防で囲まれて池となり
池は掘り出されたボタで埋められ
だんだん小さくなって消えてしまった
見渡す限りの黒い砂漠を
山を削った土で覆い
その荒地にも草が
囚人労働も 強制連行も
労働争議も 炭塵爆発も
CO中毒も
時の地層のなかに埋め込まれてしまう
大きな赤い魚はどこへ行ったのか
飛び跳ねた
クジラが地面に潜っている
テーマパークの入口
ビール工場の予定地だった
草茂る荒地の
轍の水たまりの上を
赤トンボが飛ぶ
ボンヘボン(盆蜻蛉)
入気坑を経て坑道に迷い込んだ
海の底を漂うトンボたち
風の笑いが聞こえる
低く地を這う
呪文のような響き
遠く工場地帯から
風に 舞い
ラジオ体操のリズムが
狂い 踊る
炭鉱節の音頭の果て
弾けた泡(バブル)のように
テーマパークは消え
失業の街を我らは彷徨う
消えたテーマパーク
ぼくらにとって必要なテーマは
時の地層の中に
あらたな鉱脈が
Born Heaven
有明海の干潟の下
坑道の迷路を彷徨っている
蜻蛉たち
*テーマパーク「ネイブルランド」は一九九五年七月に民間企業と
地方自治体との第三セクターによってオープンしたが、一九九八
年一二月に経営破綻で約六三億円の負債を抱えて閉園する。負債
のうちの約三九億円を市が負担することになり、市民より支出差
し止めを求める住民監査請求・住民訴訟が起っている。
*詩集「POEMS MILLENIUM 新日本文学詩集2000」
発行 新日本文学会出版部
*新日本文学会に所属する詩人によるアンソロジーです。
一人だけの詩を紹介することは詩集の紹介としてはあまり意味がないの
かもしれませんが、ざっと一読したところで、印象に残った詩を紹介しました。