書かれなかった日記から      クライン・ヘイワード 羽生 康二訳

  

        マーケット・ストリート

(サンフランシスコ、一九九八年)         五つの言語がきこえた   わずか一区画のあいだで 青いビジネススーツが   リーバイスのジーンズと混じっているのを見た バイオリンが鳴り   説教師が叫ぶのをきいた 分裂病にかかった人が   見えない者たちに話しかけるのを見た ホームレスの人たちが   戸口で眠っているのを見た わたしは通った 物乞いの人たちが   手をさしのばしているそばを そして ディケンズのこと   かれの時代のロンドンのことを思った

エド・ウィーバー

私はおぼえている 六十年代の終わり 友だちのエド・ウィーバーが 自分のからだにくさりを巻きつけて ダウンタウンを歩きまわったときのことを それは 自分たちアメリカ人が ヴェトナム戦争でやっていることに対する 罰なのだ とかれは言った もちろん かれは少し狂っていたのだ…… おそらく 私たちは現在 もっと必要としているのだろう そのときのかれのような狂い方を

*「想像」85号より 〒223-0064 横浜市港北区下田町6-14-33 羽生方
 クライン・ヘイワード(平和留土)さんの詩集から、羽生さんの訳です。
 「かれは詩がもつ本質的なものを、分かりやすい言葉で表現する詩人だと思う」(羽生)
 どこからともなく、60年代的なある種のなつかしさが漂う詩です。

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