詩集「カッコウ幻想」     若葉一枝 著

  知らない

私たちは 何も 知らない それを知っているからといって 毎日の生活にどうってことは ないのだけれど…… たとえばアフリカの沼地の底で カバの群れが 歩いたりねそべったりしている ということ チゴベラという魚は メスになったり オスになったるするということ ヒマラヤの山々が 数千万年前までは 海の底だったということ 光の速さで遠ざかっていく 宇宙のはての外がわに 何があるのか 私たちは 何も 知らない 全世界の85パーセントの人々が なぜ飢えているのか 一杯の壷に水を汲むため 毎日5キロの道を往復しなければならない 子どもたちのいること 愛とはどういう形をしているのか 今がどういう時代なのか 何十年後 ふりかえったときに 私たちはその全体像を知るのだろうか そしていちばんわからないのは 自分に ついて

  カッコウ幻想

カッコウは 木をさがしていた 木をさがしながら 自分をさがしていた 木は 「オレは自由だ」 と言った 自由 自由 自由 カッコウは 鳴いてみた どんな自由? ある日 木は折れた 中は 空洞だった 空っぽ 空っぽ 空っぽ カッコウは 鳴いてみた 空っぽなのは 木と自分の関係 なのかもしれない 朝霧の 森の中を カッコウはとんでいった つよくなりたい と思った

*詩集「カッコウ幻想」 発行 異郷社 堺市今池町6-6-9
*異郷社の犬塚さんから送っていただいた詩集なのですが、「知らない」と題された詩が
 とても魅力的で、得をした気分になりました。僕もつくづく「いちばんわからないのは
 自分」と思います。
 

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