鴉が
犬塚昭夫
鴉がきて
言うことは
人間はなぜ家をたてるのかということだ
鉄や木や
コンクリートやガラスや
そんなものをいっぱい集めて
四角い箱をつくっているが
あれが何になるのだ
雨にもぬれず
暑さ寒さは知らず
神さまがくれた自然な生きかたを
すっかり忘れているのではないのか
鴉は
雨にぬれ
雪にふられ
風に吹かれ
何もつけない体のままで
ぜんぶ自然を受けいれているのだ
どうして人間は
鴉のまねができないのか
鴉がきて
言うことは
人間はなぜ倉庫や冷蔵庫にしまいこむのかということだ
食べ物も着物も
たくさんつくって倉庫につみあげて
家には電気冷蔵庫があって
肉やパンからビールまでつめこんで
なぜあんなにもたくわえるのか
一生かかって使いきれないものを
そんなに所有してどうするのか
土や石や
資本などというものまで
いっぱい死後に残すのは
そんなに大事なことなのか
鴉は
一切所有しない
鴉は
死後に何ものこさないのだ
死ねば存在しなくなるのだから
何もいらないのではないか
*「異郷」1月号 堺市今池町6-6-9 犬塚方
犬塚さんの連載「小野十三郎ノート16」では、朝鮮戦争に関連のある詩の分析がされています。