語りの文 ―夢の中で―
北館佳林
ピース缶の封を切り煙草をいっぽんくわえる
マッチをうすぎんねずみ色の毛糸ですった
その灯った火でピースを何本か口にした
そのときあなたはずいぶん手なれた吸い方で
しかしあまり好きではないような顔をして
生意気な煙草の吸い方のしぐさだったと思う
やわらかい日差しが草むらの中にあふれて……
小花もようのスカーフをかぶった小さな老女が
髪にピンクの小花をさした女の子をつれて歩いてくる
そんなやさしい風景の時間の中から
わたしたちは出発してきたのかもしれない
とつぜんあなたは鋭くつぶやいた
“異国の海だ
異国の海に決まったんだ!”
符牒のようにくりかえすあなたの声に
ふとわたしはほのぐらい病室の中で
海にただよう舟のようにベッドの上で眼を覚ましていた
〈二〇〇一年三月 病床にて口述〉
*「ACT」 発行・仙台演劇研究会 仙台市宮城野区鶴ヶ谷2-5-10-104
*北館佳林追悼号となっています。新日本文学会の丹野文夫さんから送っていただきました。
北館さんは、丹野さんのご夫人だそうです。面識はありませんが、詩を読むと、その人の何ほどかは、
やはり分るような気がします。異国の海に漂うような、二人三脚だったでしょうか。
丹野さんからは、別に、詩集「地の軸に架かるこえ」をいただきました。また紹介しようと思っています。