ことばは今日も負けている
さとうますみ
つばめ というとき肩のあたりがすこし軽くなる
やぐるまそう というとき目の奥にすずしさが青く走る
ことばによらずになったものはなにひとつなかった
ことばのうちにいのちがあった
と書かれた書物を読んでいるわたしの頭上に
散らばって満ちているのは鳥のことば
うぐいす すずめ はと ひよどり
鳥たちのことばは空の色をまとっているので
薄荷のかおりをさせながら落ちてくる
ことばは今日も負けている
日常の物質や力に
こころに向かう時だけは
とびっきり鋭いつるぎになって
かなしい傷を負わせたりするのに
でも ことばでしか言えないことがある
それらは空の深い渕のようなひとの内部からくる
たとえば むげん えいえん アガペ
声は息の色
そのひとひとりぶんのことばを彩る
体温にあたためられた声を聞けなくなって
祈ることさえできない
そのひとのことばたちがわたしの中で
痛みながら響きつづけるから
薫りだけ残して消えた花のように
ことばに還っていった名前たちを
鳥にあずけよう
いつかある日
空の色をまとったその名前が
薄荷のかおりをただよわせながら
えいえんにちかずくと信じて
*詩誌「環」89号より
名古屋市守山区大屋敷13−27 若山方
「ことばは今日も負けている」という題のインパクトがとても強く、ひかれました。僕が題のインパクトで感じた詩のイメージは、この詩とはすこしすれ違うものがありましたが、もちろんこの詩も魅力的です。
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