詩集「メガロポリス狂想」 佐土原台介 著
そのとき
瞬間は棒立ちしたままたおれてゆく
着衣をとおして肌にしみる
夕暮れの匂い
まつということのうけわたされた未来に
肌は ほんのりとそめられ
肉体は陰のように重量をうしなう
遠いものも身近かなものも
眼差しが名指した一点にとけ
大地を波となってつたわってゆく
時間はどこでつなぎあわされるのだろう
一秒と一秒 時と時の間の
同極の磁石のような断絶が?
場と場は何によってむすびつくのだろう
一点と一点 境と境の間の
次元を異にした隔たりが?
情と情はどこでとけあうのだろう
想いと想い 個と個の間の
うめようもない確執が?
棒立ちのままたおれてゆく夕闇に
眼差しのすべてはそそがれる
またれることによってだけ それは
色彩となり音となる
期待されることによってだけ それは
歓喜の生命をつくりだす
予感にたちすくむ足元を
風をきって黒鳥がかけぬけてゆく
間もなくそれはやってくるだろう
間もなく期待は不安となる
紅蓮の喜悦にこがされる不安となる
大地は眼を見開いてゆれうごき
かけのぼる風は羽毛をちらして羽摶たき
内耳の海原は踵をふみならしておしよせ
血流は千の箇所で同時にもえあがる
待ちにまったそのとき
時と場所と情念が
いっこの碧緑(エメラルド)に凝固するそのとき
陶酔が間の亀裂をつぐない
転倒する宇宙とむきあう神経が
薔薇の光輝をはっするとき
あらゆる時のその時が
ふせられた耳を通過する
微風のひややかな感触と
響きをやめた音の余韻
微熱をおぴた灰の手で
両の眼はすみやかにとじられ
夜陰にだきとられた肉体が
現在(うつしよ)の幽境へおしあげられてゆく
*詩集の交換で贈っていただきました。
詩集中の作品はすべて「街頭で、野外で、ライブハウスで、ホールで、画廊で、繰り返し朗唱されてきた」ものだそうです。
言葉が自らの欲望に従って、自らを過剰に展開しているという印象です。朗唱をしているということで、声という求心力によって、この言葉の散乱し、展開する観念がどのように
凝集されるのか、ぜひ見、聞いてみたいものです。とても長い詩が多いので、比較的短くて、文字としての詩として際立っているものを紹介しました。