ちいさな耳たち
原 圭治
友だち 超たくさん欲しいから 待ってます
話を聞いてくれる人 連絡ください
誰でもいいので 私にかけてきてください
いろいろ遊びまくるお友達 百人募集中
連絡番号と 暗証番号を打ち込めば
あまりにも簡単につながって
録音や 再生ができるしくみで
何んでもいいから しゃべっていないと
見えない不安につかまるから
入り込んできて 流れ出ていく伝言の
ひとつの結接点にすぎない <私> は
話したがるちいさな耳になってしまうから
生身の肉体を
電脳社会の仮想現実に委ねては
刹那的な <私> の存在を見失って
自分の居場所を探すことに夢中で
肉体をはなれたちいさな耳たちは淋しがり
たくさんのひとの声を聞きたがって
どうだかわからない会話の中味まで
確かめたこともなく
顔の見えない危険が潜んでいる関係で
とっても 何かとつながりたい関係の
タイミングがずれてしまった <私> は盗まれ
ごくありふれた ばらばらの日常光景までも
隠された秘密の指図で
電子の糸に収れんされては
<私> の情報が 売り買いされていたなんて
知る手立てもなくて回収もできず
■■
その会話が 何の関係もないものとなるまで
いくらでも傍受することができると
「電子的監視に関するマニュアル」の
スポット・モニタリング(試し聴き)にあり
一通の令状で 盗み聴かれた通話回数は
平均でも二千九百九十七回にも及んでいで
記録では 五台の公衆電話ボックスから
四ヵ月間に 十二万人の会話が
盗み聴かれたということもあり
弱いつながりの関係であるかぎりに
犯罪と無関係な <私> が多数派であっても
肉体からちぎれたちいさな耳たちの会話は
深い闇のなかへさぐりを入れてくるものに
密かに記録をとられ
知らない問にデーター化されては
隠して保存されていると考えても
そこでは暗示の意志も通用せず
応答のかたちをなさない家族の関係は
容易に切り盗られるのはあたりまえで
アリバイのない耳たちが無数に
プリントされた盗聴テープを持ち出して
家族の絆を証明せよとせまられるから
互いに 明示の行為のみを主張しあっては
身近な家族を壊すことに
生きていくうえで大切なことは
<私> の内部の言葉までは
盗み聴かれないようにすることで
お互いの暗黙の約束事を守ることで
遠く離れた他人の家族とつき合わなくても
身近なところにいるちいさな耳に
肉声で対話することなので
「詩人会議」2000年1月号掲載
*昨年の関西詩人協会の総会でお会いしました。最近の作を送っていただいたので、紹介いたします。