身にしみて、ひたぶるに、どこかしこ…       河野晋平

                       * 身にしみて、どこかしこ、 骨、軌み。 くるぶしの、寒さの夜半、 抱きかかえ。 ひたぶるに、首掻きむしり、 抱きかかえ。 積雪の、行軍の中、 キ一○○の。 「雪レ」。「雪レ」のラッセル、 後押しの9600。 黒煙のモノクロームとSLの動、 動、動、動、動、   〈DOT、DO、TDOT,DO〉 ぜえぜえあえぐ、ラッセル車音。 雪!雪!雪! 〈咳、咳、咳〉       **    流れが変化したのも、せいぜい三日程度の事だった。    気圧が変わった事に気付いたのは、今日の時点で、結局    そちらの変動の方が大きいのだと、思い知らされる。    流れは、また曲折するだろうが、この速度だ。速すぎる。    耳抜きを、何度もしている。       *** 咳、雪、    咳咳、      積、積積雪、            雪、雪、積咳。咳。 咳咳咳咳!咳咳咳 私のラッセル、骨脆く、 どこかしこ。 ルサンチマンの、ラッセル音の。 身にしみて、ひたぶるに、 骨、軌み。  骨、軌む軌道。 *     *  *          *     *   *   *        *    *  *  *  *            *   **  *        *        *  **    *  *   ** *                    *     *              *       **      *            *    *   *   **     *   *     **     *       *    ***      * *   ** **************************** **************************** **************************** ****************************    ***** 軌道… 無限軌道と思えし軌道。 カタピラの、金属音の、クラン、クラーン 苦乱、苦乱と突っ込み止まり、 吹き溜る雪の地平。 軌道の上の螺旋型雲。  黒い蒸気、 黒の蒸気。 敷内の茶色の指々。 雪中に壊死ゆく鉄塊、〈深度3、5、7、9…逆さに見れれば、上昇か〉   〈右は9、    左翼は、6〉   連動する零、霊。霊等。 ロシア的宿命主義と、 キ一○○の、 「雪レ」のラッセル骨脆く、 どこかしこ、二重露出の。 身にしみて、身にしみて、 身にしみて。  〈手、見し犬。     手に凍みる、       手 見し、去ぬ。〉       ****** 雪が降っていた。  そして、   雪が降って       いた。 ぼたん雪さ… ぼたん雪か… こんこんと、 足場にふんわり、積もってくる。 はあぁ…風は、これ以上欲しくないな。 昼から、また、寒いと思ったら… 山科駅前再開発ビル現場、 非常階段の上の足場に、鉄骨に、 メンソールの雪。 足場の登り降りは、やっぱりきついわ。本音。 この歳、いつまでハードなんだ…。  〈君と会った頃の、この駅前。ひさしぶりだ…〉 仕事の手を休めて、うつろに思う。  〈命綱、もう要らないか…〉 でも、ぼたん雪だよ。 なんか、うれしいね。 そうさ、嬉しいよ。 いいじゃないか、それで。 ああ。 そうだったね…。 どこかしこ、幻想の今、 身にしみて。

*「KAIGA57」より
   大阪市西成区千本中2-11-15
 ラッセル音と雪の幻想と最終連の現場への着地。河野さんらしさがとてもうまく作品化されていると思います。最近読んだ詩ではイチオシです。
 なお、本来はもちろん縦書きです。無理に横書きにしているので、作品の良さを殺しているかもしれません。
 

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