無 小林吾道
悲惨である 跡絶えることの 突然、崩壊することの 喪失してしまうことの 自然に帰ることの 消えて、無くなってしまうことの 無辺の世界の営みのひとつにすぎないと 知っていたはずなのに 断ちきれてしまうことの 落下していくことの、石の沈黙 わたしは孤独な語り人 囁いている ふたたび甦ることのない…… 絶望である 絶望である、と思うことの悲惨さ 石も草も、木も、花も、 そして鳥も 木の根に巣くっている蟻も すべてなにもかも 宇宙の息吹きであると…… 、信じることの わたしは孤独な語り人 落下していきながら、叫んでいる 〈南無阿弥陀仏〉 完璧に近い実験台 さらりと 蝶が飛び立つ 石が交差する 風が通過する